Image credit:NASA/Steven Seipel
米航空宇宙局NASAはニューオーリンズのミシュード組立施設で、アルテミスIII計画に投入する大型ロケットSLSの液体水素タンクに断熱材を吹き付ける作業を完了した。このタンクは長さ約40メートルで、同施設が扱うロケット部品としては最大級である。
今回施された断熱材は熱保護システムと呼ばれる。打ち上げ時の激しい加熱から機体を守りつつ、タンク内部の液体水素を摂氏マイナス253度という極低温に保つ役割を担う。十分な保護がなければ推進剤は発射前に気化してしまい補給が追いつかないため、担当技術者は熱保護システムを「ロケット全体の生命線」と説明する。
塗布にはロボットアームを用いたスプレー方式が採用され、柔軟性の高いポリウレタン発泡フォームが一気に吹き付けられた。総延長33メートル分のフォームを102分で均一に塗布するという、単一面積への施工として宇宙開発史上最大規模の記録を打ち立てた。塗布直後のフォームは鮮やかな黄色だが、太陽光の紫外線を浴びると自然に色が変わり、スペースシャトル外部タンクと同じオレンジ色になる。
従来のスペースシャトル外部タンクでは大きな部品を縦に立てて発泡させていたが、今回はタンクを横向きに寝かせてスプレーする初めての試みだった。姿勢が変わると発泡の流れも変化するため、フォームを均一に硬化させる条件を探るために綿密な計画と試験が重ねられた。
SLSコアステージ全体は全長65メートル、直径8.4メートルで、NASAが製造した単一ロケット段として史上最大級である。液体水素タンクと液体酸素タンクが4基のRS-25エンジンに推進剤を送り込み、約8分間燃焼して機体を地球低軌道へ押し上げる。その後コアステージは上段とオリオン宇宙船を切り離し、役目を終える。
断熱材の吹き付けを終えたタンクにはこれから配線やセンサーなどのシステムが組み込まれ、最終組立に進む。アルテミスIIIでは新型着陸船と船外活動服が投入され、人類初の月南極探査を実現する計画だ。NASAはこの工程の完了により、月面着陸へ向けた準備がまた一段進んだと強調している。
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